【レッドメモリー <出会うは鬼>】

固く閉ざされた研究施設、そこには人工的な明かりはなく、地面を照らすのは星の光ぐらいだった。

だ…れもい…ない……みえな…い……きこ…えない…感じな…い………ない…ないな…いな…いな…い
………なにもな…い……真っ…暗……体…動か…な…い……腕…ない…足…ある…軽い…起き上が…る
……無…理…腕…な…い…

「…?姉様、あっちで物音がしたんですが?」
「……?おかしいわね、ここはもう放棄された施設なのに」
電源が生きていて、電気をつけたあと、そう言ってカムナは音のした方角に目を移した。
「ここは廃棄処理場よね…」
「ええ、シーネス社っていうとこの…」
「ふぅん…」

ナイトクラブノーチェは一つの依頼を受理した。それは多額の賞金のかけられた極秘任務のようだった。
もちろん、ナイトクラブノーチェのママ、カムナ=アークはこの依頼を一度拒否した。それは当然の一言で片付けられた。
なぜなら、この依頼にかけられた賞金が異常なまでに多額なことが物語っている。危険な仕事だ、と。
しかしそこに介入した者がいた。トモだ。
トモは新しくノーチェに入った新人ホストの一人である。
その詳細は謎な部分が多く、黒を中心とした服装で、無口。
普段から指名されない限り、クラブの表側に出ることも少なかった。
そんな男が、みずからその依頼を受けることを買って出たのだ。
これにはカムナや、オーナーのレイヴンも目を丸くした。
「ここで受けられない依頼なら、俺が個人的に依頼を受けるまでだ」
トモの目は本気だった。少し怒りが混じったような瞳だったかもしれなかった。

「依頼の場所はここで間違いないのね、オーナー?」
「ええ姉様、本来ならここで捜索する依頼で…」
その時、カムナの背後から足音が聞こえてきた。ゆっくりとソレは近づいてきた。
カムナはソレに向きなおり、愛刀オロチアギトを構えた。
「ふむ、ママさんか。脅かさないでくれ」
ソレは黒い服と黒い髪をした男、トモだった。トモは目の前の二人を見て仮説を二つあげた。
「ママさんは、俺を捕まえにでもきたのですか?それとも俺の捜索を先回りして横取りでもするつもりで?」
「なっ…そんなこと」
トモに向かって行きそうだったレイヴンに、カムナは腕をのばして行く手をさえぎった。
「違うわ、トモ。貴方の為に言っているのよ?こんな危険そうな依頼はマトモに取り扱わない方がいいわ、分かるわね?」
落ち着いた口調でカムナは警告した。しかしトモはフッと笑うと、その場でサンゲヤシャを構えた。
「断る…と言ったら?」
「メディカルセンターで明日を迎えることになるわ」
その言葉を合図に二人は睨み合った。
「おもしろい、一度手合わせしたいと思っていた…」
トモの目にカムナがくっきりと写った。
「クラブのママゴトは、向こうでやっていただきたい、これは俺の仕事なんですよ」
「…以外ね、そんなふうに思ってたなんて…」
カムナは力ずくで連れ帰ることを目的として、オロチアギトの刃をトモに向けた。
「…お話にならないわ、オーナー下がっていて」
「わかりました」
一瞬静寂がその場を支配し、カムナとトモの二人の間合いが一歩近づいた。
そのとき、地震のような振動が二人をグラつかせた。
「…!なに!?」
「地震…!?」
「いや、これは…」
足場や壁がきしみだし、崩れ落ちた。ものすごい轟音が響きわたり、廃棄処理施設のコントロールルームが崩れ落ち、そのまま"廃棄場所"に向かってさらにボロボロと崩れた。
斜面に設置された部分であったため、崩れてずり落ちたようになっていた。
振動もなくなり、カムナは体勢をたてなおした。
「ふぅ…オーナー大丈夫?」
「うぅ…なんとか平気です」
ハッとカムナはトモの姿を探したが、すでにそこにはトモの姿が見えなかった。
「今は依頼が優先だ、悪く思うなよ…」
聞こえるはずのない声でカムナとレイヴンに別れを告げ、トモは走り去っていった。

「おせっかいな人達だ…」
一人ごとをつぶやきながらトモは刀を戻し、捜索作業に戻ることにした。
デスクとパソコンの並ぶ部屋をみつけた。電気がつくことから電源が生きていることを確認する。
「シーネス社の破棄処理記録データか…」
コンピューターの画面をクリックするとパスワードの警告が表示された。
「…R,E,D,H,O,O,N…っと、これでいいのか…」
エンターを押すとパスが解除され、モニターにズラリと文字があらわれた。それを見て、トモは驚いた。
「へぇ…傑作じゃないか…」
そこに映し出されたのは、アンドロイドやニューマンの廃棄記録とその詳細であった。
その中には、行方不明や事故での生死不明の者達の情報もあった。
「ふむ、なるほどな…」
トモはデータを回収し、席を立った。
「そろそろ出てこないと俺から仕掛けるぞ…」
「ほほ…察しがよろしいねぇ」
トモの向いた方向には一人のフォーマーの姿があった。トモに依頼した人物、バルコ=ファブレムである。
バルコは白髪の青年の姿をしていた。
「その体、被験者No.04のをつかったんだな?」
ほほ、と少し笑って、バルコ意外な目でトモを見た。
「君はスルドイねぇ、なかなか分かるもんじゃないんだけどなぁ、もしかして君も?」
「いいや、元々の体だ、興味もない…」
先ほどのリストのデータをダウンロードしたディスクを手にとって続けた。
「あんた、こいつをやってもらったんだろ?脳移植、とかいうやつを…」
「ほほ…なんだ急に?」
ディスクをヒラヒラと振りながら淡々と続ける。
「このリストを見て、分かったことがある。ひとつはあんたの年齢はすでに高齢をむかえていて、本来の体はもうすでに処理したあとだろう」
「…?そりゃあなんの役にもたたん体だ、置いておいても仕方あるまい?」
「どこのどいつに移植してもらった?知り合いか?」
「なにを言い出すんだ?あんたがやるにはまだ早いと思うが?」
「…いま俺は"誰に手術してもらったか"を聞いたんだが?」
トモがバルコを睨みつけた。バルコは一瞬たじろいた。その反動で背中に壁があることがわかった。
「今さっき、地震がおきたかと思ったが、あれはあんたがやったんだろ?テクニックかどうかは知らないがな」
「ほほ…なんのことやら…おおかた脆くなっていたのではないですか?」
「さあてどうだか…」
おもむろにトモはサンゲヤシャを装備し、ゆっくりとバルコに近づいていく。
「その体はな………俺の戦友のもんなんだよ」
「……なっ!?」
「その戦友はワレスって言ってな…依頼ばっか捕まえて生活してた奴なんだよ…そう、最後に会ったのは"ある依頼"の前だ…」
トモは手に取ったディスクを足元に放り投げ、踏み潰した。
「…!?貴様っっ…!」
「その最後の依頼人がバルコっていう名前だったかは知らないけどな、あんたがその面してるってことは…」
サンゲの刃をバルコの首もとにまで近づけ、片方のヤシャでバルコの肩を貫いた。
「うぁあ゛っ!…がっ…」
背後の壁が赤く彩られ、静かに突き刺さったヤシャの刃がバルコの背後にある壁にまで到達し、バルコは身動きがとれなくなっていた。
「もう一度チャンスをやる、だれにやってもらった!?どこのだれに!?」
肩の痛みからか、バルコの顔が異常に歪んで目もつり上がっている。荒い息が混ざり、うまく話せないようだ。
「う……ヒル…ビングール…は…博士…」
「ヒル=ビングール?」
聞いたことのある名だ。
最近になって有名になりだした若手のドクターで、マグを変化させるという薬品を製作中なんだとか。
トモは、ふむ、と一息いれてバルコに突き刺したヤシャを抜き出した。
その拍子にバルコの肩から血がドッと流れ出た。
「うがはっ…けほっげほっ」
ひとしきり咳き込んだあと、うなだれたバルコの目には光が見えなかった。
「…死んだのか……?……」
ヤシャについた血が滴り落ちた。その血は紫に変色していた。

そのころ、カムナとレイヴンは、廃棄場所に放り出されていた。
「広いわねえ、どっちに行けばいいかしら?」
「私のカンが正しければこっちと」
二人は見慣れぬこの場所に閉じ込められた。そして出口を探していた。
「早くトモを連れ戻さないと、危険だわ」
「しかし、依頼人はなんでこんな場所への依頼をしたんでしょうか…」
「確か、データの回収とかなんとか…」
レイヴンは大きくノビをした。そこへ、声が聞こえててきた。
『きえていく…』
「?」「??」
二人は足をとめた。人の声らしきものが、風に混ざって聞こえてきたからだ。
「オーナー、今なにか言った?」
「いいいいえ全然なにも…」
『み…えない……感じ…な…い…』
「!?!??」「!?!????!」(声にならない叫び)
二人は驚きのあまりその場に立ち尽くした。
『まっく…ら…』
「あら…?」
「姉様、幽霊でしょうか…」
レイヴンはブルブル震えながら腕にしがみついている。
「あ、そっちにもあったのね」
カムナがむこう側のゴミの山から歩いてきた。
「あら?なんで姉様が私の目の前に…??」
レイヴンはおそるおそる横を見た。そこには赤く染まった人の腕が…。
「ぎゃーーーーーっ!?」
「落ち着いてオーナー、これはアンドロイドの腕よ」
「あ…」
レイヴンは赤面した。さきほどまで抱きついていたのはゴミの山に突き刺さっている赤い機械の腕であった。
「ま…まぎらわしい…」
『ま゛ぎやわ…しい…』
「あら、反応したわよ」
その声は、カムナが持ってきたアンドロイドの腕と、レイヴンのしがみついていた腕から聞こえてきた。
「まだ生きてるんですかね?」
「きっとそうよ、探しましょう」
トモを探すことも忘れ、二人は駆け出した。

しばらく歩き回っていると、ゴミの山にもたれかかるように赤いアンドロイドが埋まっているのが見えた。
それは腕が両方取れていて、アンドロイドとは判別し難くなっていた。
「じゃあこのゴミをどけないと…」
アンドロイドにかぶさった山のようなゴミを見上げてカムナはつぶやいた。
「お任せください姉様!ラフォイエ!!!」
カッ!!ズゴォオオオン!!!
ものすごい爆発があたりを包み込み、ゴミの山もすっかり吹き飛んでいた。
アンドロイドのほうは一応無事のようだ。
「加減しないと駄目じゃない」
「すみませ〜ん」
二人はとりあえず赤いアンドロイドを広い場所に移した。予想どおりの重さだった。
おかげで二人は息切れ状態になった。運ばれた時の衝撃でアンドロイドも機能が回復したようだ。
「コ、コレはいったい…」
アンドロイドは二人を交互に見回す。
「あら、はやくも復活したようね」
「ふぅ、疲れましたよ〜ホント」
カムナとレイヴンはこれまでのいきさつを話した。
「というわけで、貴方は今までそこに埋まっていたんですよ」
レイヴンは黒コゲになったサラ地を指さした。
「すさまじいテクニックの威力ですね…ラフォイエですか?」
意外そうな目でカムナはアンドロイドを見た。
「アナタ、結構いい目してるわね。普通オーナーのあれを見たら"プラスチック爆弾でも使ったんですか!?"とか言って驚くものよ」
「うわっ!姉様!ヒドいですよ!!せめて"焔の錬金術師でもきたんですか"とか」
「オーナー、そのネタはよく分からないわ」
「ええ!?知らないんですか!?指を鳴らしたら爆発するという…」
「私もそういうのはあんまり…(埋まってたし)」
レイヴンが脱力した。少しショックだったようだ。
「そういえばお二人のお名前は?」
忘れてた、とカムナとレイヴンは笑った。
「アタシはカムナ=アーク、クラブのママをやってるわ」
「私はレイヴンです、クラブのオーナーをやってます!」
「へぇ〜…私は…あれ?」
少し間が空いて再びアンドロイドが話した。
「私はだれでしたっけ?ハハハハ」

赤いアンドロイドは立ち上がると結構背が高いことが分かった。
体型もゴツゴツした感じもなく、人間ならベストの体型のように思える。
各部のフレームの形状からしてヒューキャストである。
バグかどうかは不明だが、以前の記憶を無くしてしまっているようだった。
「困ったわね、どうしようかしら?」
「どっかに名前とかなにか書いてないですか?」
「あっ!姉様!なにか書いてますよ、背中に!」
そこにはMADE IN JAPANと彫られていた。
「…アナタ日本で作られたみたいね」
「ふ〜ん…ってオモチャじゃないんですから!」
表情からは解らないがちょっと怒ったようだ。
「姉様、ショック療法とかは…?」
「やめておいた方がいいわオーナー」
「…」
急にアンドロイドは黙りこんだ、そして何やらつぶやく。
「………WA、ザッ…=KA.ビヒュッ…。〜………WAギッ…=KA」
途中、ラジオのチューニング合わせる時に聞こえるような音が邪魔をして、何を言っているのかわからない。
「ちょ、ちょっと!?大丈夫ですか!?」
「ーーーああ゛っ!?…私は……ワ……カ……」
「?ワカ?アナタはワカっていうの?」
「いや…違う…私は……うう〜」
しゃがみこんだままアンドロイドは止まった。
「…大丈夫?」
「少し思い出しました」
何も無かったかのように立ち上がって、自分の手を見つめながら言った。
「ワ〜なんとか、カ〜なんとかっていうのは解りました」
「ホントに少しなのね」
「あらら、それじゃあ一応名前はワカでいいんじゃないですか?ゆっくり思い出しましょう」
「ええ、そうします」

トモはまだ死体の転がった部屋にいた。
バルコ=ファブレムとヒル=ビングールの関係に関する情報を探していたのだった。
「ヒル=ビングール、若手のドクターで科学者でもある、…か」
それぐらい普通の家庭用のコンピューターでも調べられることだった。
ヒルはバルコとどういう関係があったのか。トモはそこが引っかかっていた。
普通有名になったばかりの人物は、目立った違法などには手を出さないものである。
大体バルコに新しい体を与えることは、ヒルにとってなんの得にもならない。
金をつまれてやるにしてはコストもでかいだろう。
「無駄足か…」
コンピューターの電源を切り、トモは立ち上がった。
もうここにいても特はない、そう判断したのだ。
「…?」
物音がした。それはなにかを引きずるような音で、少しずつ近づいてくるようだ。
「…!?」
トモは物音の正体がなんなのかを知った。それは死んだはずのバルコ本人の姿であった。


「なんだ…なにが起きた?」
息を荒くしたトモは、壁に背をつけてサンゲヤシャを下ろした。
「そうか…ようやくわかった…」
アイテムパックの中からディメイトを取り出し、ハンタースーツにセットした。
ディメイトの注入型、液状の薬をハンタースーツの機能を利用し、体内に直接投与する方法。
「時間があれば普通のを使うんだがな…クッ」
効果があらわれるまで10秒もかからないのが注入型のいい所だとトモは思っている。
「そろそろ追い付かれるか…」
トモは再び走り出した。もともと暗い施設なのでトモの姿はすぐ見えなくなってしまった。
そしてさっきまでトモがいた場所に黒い影がゆっくりと現れ、トモと同じ方向へゆっくりと進んでいくようだった。

そのころ、カムナとレイヴン、ワカの三人は施設内に続く道を探していた。
「トモというんですか?そのホストさんは」
「ええ、この依頼を受けたのもトモの意志」
「私達はそれを止める為に来たのです…あっ、この近くに中庭に通じる場所が…」
「そっちにトモがいるかもしれないわね、一応調べましょう」
カムナが中庭へ続く道を行こうとすると、レイヴンは立ち止まった。
「?どうしたんですかレイヴンさん?」
「オーナー?」
カムナも気づいて振り返った。
「姉様…なぜそこまであのトモを?」
「?どうしてそんなことを言うの?」
「いえ、なんでかなーっと…」
レイヴンは笑ってごまかした。けれどカムナは答えた。
「あんなホストも、大切な仲間じゃない。ほっとけないでしょ?」
「ええ…そりゃまぁ…」
カムナはニコッと笑った。
「それに、いまホストが一人減ったら一人分仕事が多くなってしまうわ」
レイヴンも覚悟をきめたようで、拳を握りしめて気合いをいれた。
「そうですよね!!帰ってきたらバリバリ働いてもらわないとっ!!!」
「その意気よ、さあ着いてらっしゃい」
カムナとレイヴンは走って行ってしまった。
「ちょっ、おいてかないでー!!」
そしてその後をワカが追いかけていった。

「ひぃ、ひぃ、もうだめだー!」
息が上がったワカはその場に座りこんだ。
「あらあら、アンドロイドも万能じゃないのね」
「まったくです」
二人は600m以上全力(?)で走っているにもかかわらず、息が上がっていなかった。
「いや、すごいんですねぇ、お二人とも」
「そうかしら?」
「これでも全力じゃないですしね」
勝てない、そうワカは心の中で強く思った。
「うおっ!?ママさんにオーナー!?」
そのときワカの背後にあたる所の通路から、キズだらけのトモが飛び出してきた。
「オーナー、大当たりね」
「ええ、姉様」
レイヴンとカムナはニヤリと笑った。
「…ん?誰だ?お前」
地べたに座り、息切れしているヒューキャストを見て疑問に思う。
「あ、私はですね…」
「!しまった!」
トモは、今出てきた通路に向きなおりサンゲヤシャを抜き、構えた。
「…!」
その瞬間、カムナも何者かの殺気を感じ、オロチアギトを構えた。
「どうしたので?二人とも」
「ワカさん、早くこちらへ!」
「は、はい?」
わけがわからず、ワカは言われるままにした。
トモとカムナが並んで暗い通路を見つめる。
「一体なんなのトモ?」
「依頼人だ、いきなりエネミーみたいになって襲いかかってきたんだ」
「なんですって!?」
カムナは驚いた。もちろん顔はよく覚えている。依頼人パルコ=ファブレム。
シーネス社の無人廃棄処理施設にあるデータリストをコピーし、そしてオリジナルデータを消去してきて欲しいと。
奴の依頼は怪し過ぎた。だからカムナは依頼を受け入れなかったのだ。
通路に足音が鈍く響く。それは靴音などではなかった。
「………ヴォオオ…」
その依頼人の姿は完全にエネミーとなってしまっていた。
「デルセイバー…?」
「いや、たしかに似てはいるが元人間だ」
確かに体つきといい剣といい、デルセイバーに似ていなくもないが、頭部に見覚えのないツノ、肩は鎧のような形になっていて、やはり別の存在といえる。
「キサ…マラ…」
「!しゃべった…!」
「コ…コ…コロス…」
「くるかっ!?」
「コロスコロスコォオオッ!!」
バルコは跳躍した。デルセイバーの攻撃パターンとそれは似ていた。
「うおぉっ!」
トモとパルコの武器から火花が散った。
「このっ!!!」
デルセイバーの細い腕をねらって、トモはサンゲを振り下ろした。
だがそれは、バルコには通用しなかった。
「鎧…!?」
サンゲは凄まじい音を立てて弾かれた。
「ラバータッ!!」
レイヴンはバータの最上級魔法ラバータを発動した。これはデルセイバーの苦手とする攻撃のひとつである。
「…ロォオオスッ!」
そのときパルコがニヤリと笑ったように見えた。
「かわした!?」
バルコは再び跳躍し、レイヴンの放ったテクニックをかわしたのだ。
そして刃はレイヴンに向けられ、バルコは降下してくる。
「きゃあああっ!」
「オーナー!」
バルコの刃がレイヴンに振り下ろされた、その瞬間。
「ぅく゛っ!!」
「あ、姉様ぁあっ!!」
ある程度威力はやわらげたが、レイヴンをかばった分、カムナは自分にダメージを受けてしまった。
左肩から鮮血が流れで出ていた。右手で持っていたオロチアギトは見事に折れてしまっていた。
「コロォオオオオッ!!!」
再び切りつけようと、またバルコは跳躍する。
「レイヴンさん!ーーー!!!」
レイヴンは混乱していた、目の前で親愛なる人物が血を流している。
姉様…私のせいで……
ゴメンナサイ姉様…
「ウォァアアアッ!!ギタンドレェェッ!!」
その叫び声がよびよせたのは発光する丸い物体であった。
「な、なんだコレは!!」
トモは突然現れたこの物体を見て驚きを隠せなかった。
そしてその丸い物体の真上にはバルコがいた。それはバルコを狙ったものだったのだ。
「コ…ヴォアアアアアア!?!?」
降下していたバルコには避けられなかった。
その発光体は触手のようなものを出し、バルコを包み込むように動いていた。
「ゴロゥラhqf,eep~/o@en*baッ?!?!」
ものすごい叫び声のわけは、この発光体が電撃を放っているからである。
デルセイバーに雷が効かないのは、体がアースの働きをするからという説がある。
なら空中で食らわせられれば、ということだろう。
発光体が消えると、バルコもすでに消滅していた。
「これは一体…」
「…レスタ」
そのとき、レイヴンはカムナに回復テクニックを発動し、キズを癒していた。
「オーナーじゃない…!?ということは…」
トモが視線を向けたところには、気絶しているワカがいた。
「…なんなんだ一体…」

『きえていく…』
「な…に?」
『まっくら…』
「……」
『なにもみえない…きこえない…』
「…!」
カムナは目を覚ました。周りを見回すと、ここがメディカルセンター内だということが分かった。
おかしな夢を見た。暗闇で聞こえたヒューキャスト、ワカの声だった。
「ZZzzzZZzzz……」
カムナは、レイヴンがイスに座ったまま寝ていることに気づいた。
「オー…」
呼び起こそうとしたが止めておくことにした。きっと徹夜で看病してくれていたんだろうと思ったからだ。
「ZZzzz…ごめんなさい…zzZZzzZ…」
肩のキズを見てカムナは
「油断しちゃったわ」
と溜息をついた。

数週間後…
「みんな、心配かけてごめんなさいね」
その夜、ナイトクラブノーチェは開店しようとしていた。
「ママさん、大丈夫なのか?」
トモが不思議そうに見つめる。
「姉様!私が全てやりますから!!」
レイヴンは必死に訴えた。
「ええ、でもオーナー、頼みたいことがあるの。トモにもね」
「む?」
「え?」
カムナがニコッと笑うとそれが合図かのようにノーチェの扉が開いた。
「も、もうしわけありまっせぇええん!!」
「15分の遅れよ、ワカ」
「なっ!?」
「ワカさん!?まさか」
レイヴンがカムナに目で確かめると、カムナは頭を縦にふった。
「ええ、ワカはウチで雇うことにしたの、みんな仲よくね」
他のホスト達やホステス達はなにも知らずにいい返事をした。
「あ…姉様がいうなら仕方ないですね」
「う〜む…」
若干付き合いづらいと思う二人であった。

「ああ、オーナー、トモ、頼みっていうのはワカの面倒をみることなんだけど…」
「え!?うう…まあ姉様がいうなら…」
「…仕方ない…か…」
そこへワカが割り込んできた。
「そういえばカムナさんのことはなんて呼べばいいんですか?」
「え?別になんでも構わないけど…」
「それじゃあ"姉様"と呼ばせていただきます!」
「ええ!?私と同じじゃないですか!」
「ダメですかね?」
「構わないわよ?」
「そ、そんな…」
「ま、べつにいいでしょうオーナー」
こうしてナイトクラブノーチェに新しいホストが誕生した。
しかし、この赤いヒューキャスト、ワカがとんでもないトラブルを引き起こすことなど知る余地もなかった。

続く

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