【レッドメモリー <狂った何か>】

その日もまた、ノーチェは変わらず営業を開始した。
変わったのは一人のアンドロイドが店員として仲間に加わった事だった。
パリーン
「…またかぁ」と苦笑いしたのはフォーマーの雪風だった。
その隣にいたフォマールのアンナも「…そろそろオーナーのゾンデが落ちますね」と言うと少し不安そうに笑う。
案の定、
「ワカさん!!あなたは私のゾンデを喰らわないと事の一つもなしとげられないのですかああー!?」
荒ぶる鬼神のごとく、憤怒の表情でノーチェのオーナーこと、レイブンの怒声が店内に響いた。
「だってだって私の鉄製の手じゃコップがすべっ…ぐヴぁあ!!」
「言い訳無用!!今日はお客さんも大して来ないからビシビシいきますよ!!」
大して来ない理由としてあげられる理由はただ一つ。
「今日はママが用事でいないから…ですね…」
美鈴は平然というが、それは大変問題アリである。
椅子を揺らしながら人気ホストのヘッポコが言った。
「ママを目当てに来る人がほとんどっすからねえ…客がたいして来ないっていう予想はあたるっすよきっと…ふぁあ――あ…」
言い終わるとヘッポコは伸びをした。しかしその後ろには何もない。
「うわっわわわ!」
バターン!
仰向けに倒れてしまった、当然の結果である。
「あんまりバカやってると命がいくらあっても足りないですよヘッポコさん」
と雪風は笑う。
パリーン
「…そろそろ逃げましょうかみなさん」
と、アンナが言うと、続いて「そうですね」「そうっすねえ」と二人が続く。
しかし美鈴は
「みなさん、どうして店をでるんですか…?今日は営業中では…」
と頭の上にハテナマークを浮かべる。
すると、みんながある場所を指差したそれを見た美鈴は「…ああ…そうですね確かに」と納得。
指差したのは、無言「(汗)」状態で震えているワカと、その目前でオーラを発するオーナーに向けてのものであった。

薄暗い路地の中、ヒールが地面を突く音が響く。その音に反応し、暗がりにいた影が立ち上がった。
「久しぶりね、何年ぶりかしらアナタと会ったのは」
「いちいち覚えてくれてるとはな。もう来ないと思っていたよ、アーク」
立ち上がったのは細身で小柄な男だった。
髪は茶髪、服装もかなりモダンチックで、一昔前のファッション誌に載っていそうな格好だった。
「アナタ、変わってないわね。流行に流されないところも」
「どうせ俺はダサいセンスしてるとも、っていうかなんで話すたびにいっつもその事ばかりを…」
「そうね、あの頃はアタシも不思議とそこしか気にならなかったのよねえ…」
「能書きはそこら辺でいいだろう、何の用だ?」
「ちょっとした質問なんだけど、アンドロイドがテクニックを使う話聞いたことない?」
「…ないこともないが?なぜそんなことを…」
「あら、いけない?」と言うと「へいへい、どうせ答えないんだろう…」と鼻で笑う。
周囲をガサガサとあさると、そこから小さなコンパクトパネルを取り出した。
スイッチを入れると文章のずらりと並ぶモニターが壁に表示された。
「詐欺やトリックだった件を除いても結構多いんだ、どうする?」
「そうねえ…シーネス社とか、パルコ=ファブレムに関するものはない?」
「…あった、これか?」
そういうと画面に大きく表示する。

A.U.W.30XX年
[テクニックの重要性を考慮したこれからの運営について]
パイオニア2軍部、及びハンターズのフォースがテクニックを使用する事で、
今まで進行不可能であった地域の捜索も予想以上に進行し、多大なる成果をあげたことは言うまでもなく、
認めざるを得ない。
結論はミギィ科学研究員の推薦する「フォースに長けたニューマンの大量生産」と、
第二開発部チーフのファブレム氏による「新たなフォースロイドの開発」に決まった。
が、しかし「フォースに長けたニューマンの大量生産」に取り掛かったミギィ科学研究員が
突然行方不明になった事がわかった。
助手の研究員も数名行方不明になっており、計画は急きょ中止とされ、結果的に「新たなフォースロイドの開発」に
重点をおいて進行されることとなった。

A.U.W.30XX年
順調に進んでいたはずの開発が、ラボとの連絡が途切れた事で崩れ去った。
原因は不明であるが、ラボ内に派遣した救助隊が何者かと交戦した事がわかった。
交戦した時の通信音声に「狂ったアンドロイドがこちらに向かってくる」という情報から、
相手は開発中のフォースアンドロイドであることが明らかとなり、確かな証拠はないものの、
現在も活動中とみて間違いないだろう。(X月X日現在)
パイオニア2軍部はこれを敵対分子とみなし破壊することを決断せざるを得ないと――


「ひいいいご勘弁ををを!!」
「いいえ許しませんよワカさん!今日こそそのどてっぱらに風穴あけたるけえ覚悟せえや――!!」
ここはノーチェ店前ロビー。
時速25kmで走るアンドロイドとその後を追うフォースの乙女、乙女はテクニックの射程距離までジリジリと追い詰め…
シュボッ…
「いや!!最高レベルのフォイエじゃ私でも耐えられませんて!ちょっぎゃああ!」
ズガアアァァン!!
「ふっ、我ながら美しい火柱です」
キラリと決めたつもりだが女性がやるには少し野蛮だった。
「ああーあ、ありゃもうだめだろう、ワカもついにメディカルセンター行きだろうな…」
「そう言ったのはぼーっと見ているだけでワカを助けようともレイブンを止めようともしない白状な男、
トモである…ってカンジ?」
「オーナー、自覚あるならやめといたらどうです?」
トモは呆れた声で言った。
「だってワカさんったら要領が悪いというかなんというか…ドジなんですもん」
そういうと死体の確認のために火柱をかき消した。
「…」
黙るオーナー。
「?どうしたオーナー…まさか…!」
もしやワカが…!!
「…逃げられましたがナニカ?」
「…やっぱり、あいつ頑丈だからなぁ…」
そしてオーナーの背後に足音が近づいてきた。オーナーは目をギラリと光らせ、勢い良く
「そこかあ!!ラフォ…もごご」
しかし口をトモにふさがれた。
「オーナー、お客さんみたいだぞ」
オーナーもハッと気付く。
オーナーの目の前にはハニュエールの二人が立っていた。当然目の前の惨状に目を丸くしている。
「いらっしゃいませえ〜、お見苦しいところをお見せしてすいません♪」
さっきまでの恐ろしい形相が嘘のようにころっと変わった。
「(敵にまわしたくないタイプだな…)」っとトモはつくづく思った。

そのときワカはこっそりとロビーの柱の影に身をひそめていた。
「(あ、あの人達お客さんかなあ…)」
とりあえずオーナーの魔の手から逃れられた事を心の中で喜んだ。
そのとき、聞こえにくいがオーナーがお客さんらしき人物と話をしているのが聞こえた。
「じゃあどの方がご希望ですか?現在一番おすすめなのは…」
と店員表を開いて見せると、迷うこともなく
「…このひと」
「え?」
「この人じゃだめかな?」
店員表を指差した。
「い…いえいいですが、なにぶん新人なものですからオススメはできな…」
「じゃあこの人でお願いします」
その指が指したのは赤いアンドロイド、ワカの写真だった。

<続く>

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