転送装置を抜けた瞬間、モーターの起動音とともに目前の扉が開いた。 「ここが…坑道…」 赤いボディのアンドロイド、ワカはその機械だらけの光景に釘付けになっていた。 「アンタ、ハンターズの基本情報もしらないの?」 隣で呆れた顔をしているハニュエール、名前はエレナ。 「私達はアンタを雇ってるんだ、足引っ張るんじゃないよ?」 「す、すいません…」 ヘコヘコと頭を下げるワカ。 「ったく…なんでこんなアンドロイドを…」 エレナはボソっとつぶやいた 「え?何か言いました?」 「…なんでもないよ」 そのとき後ろから明るい声が聞こえてきた。 「おまたせ〜♪」 もう一人の依頼人、ハニュエールのアイリィ…だったと思う。 アイリィはとくに急いだ様子もなく、へらへら笑っている。 エレナとは正反対だとワカは思った。 「アンタはいつもいつも遅れてくるわね…」 「ごめーん」 「反省するならちょっとは学習しなさいよ…」 「うん!」 「返事だけはいいんだから…」 なんだか姉妹のような二人だと思う。いや、姉妹なのかもしれない。 「ちょっと!アンタまでボーっとしてんじゃないよ!」 ゲシィッ!(足蹴り) 「す、すいませぇん…」 薄暗く目立たない通路の壁にもたれて一人、エレナは依頼人を待っていた。 「(今日はどれだけ稼げるかな…)」 エレナはたくさんの家族がいる。 血の繋がっていない家族だけれど、その為にならどんな仕事も扱うつもりだった。 「またせたな、ミスエレナ」 「遅いわ、名無し殿、女性を待たせるなんてサイテーね」 ふ、と微笑する名無しの男、この手の依頼人は名前を”名無し”にすることがたびたびある。 「早速本題に入るぞ、この人物を坑道の奥に誘導するだけだ」 「…それだけ・・?」 エレナは残念そうに言った。 「悪いけど、その程度の依頼なら他あたってくれない?金にならない依頼は時間の無駄だから」 そういうと手でシッシとはらった。 しかし男は足元からハードケースを取り出すと、それを開いて見せた。 「ここにあるのは前金だ」 男はそういうとソレをエレナに手渡した。 「怪しいわね、アンタ」 「よくいわれる」 「…成金は好みじゃないけど、その依頼、受けるわ」 「ありがとう、ミスエレナ」 そう言うと写真の人物の誘導方法や現在位置等の情報のファイルを手渡し、背を向けた。 「ちょっと」 「?」 「後の金と、今度はアンタよりいい男をつれてきなさいよね」 「成功すればな…」 それだけ言って名無しの男は去っていった。 カナンのボディに亀裂が走る。 爆発とともに破片が撒き散らされ、周囲に音をたてて崩れ落ちる。 「(剣の腕はまあまあみたいね…)」 エレナはあっちこっちに動き回り、カナンを切り崩していくワカを見ながら思っていた。 そのうち敵がいなくなったことに気づいたワカはゼェゼェと息を切らして近づいてくる。 「せ…殲滅…完了…しま……したよ〜…!」 (;´Д`)ハァハァ しているワカはキモかった。 「ばーか、まだいるよ」 と指をさした先には巨大な機体、バランゾがいた。 「あああんなの倒せませんよおお!!」 オロオロしているワカ 「ああもう…!アイリィ!」 どきな!とワカを押し退ける。 バランゾが放ったミサイルが残されたエレナにむかって集中する。 しかしエレナは横に避けようともせず、そのまま前に踏み出した。 その瞬間、エレナの正面にあったミサイルが待機していたアイリィに撃墜された。 「今です!」 その言葉を合図にミサイルの横をすれすれでかわした。 そしてバランゾのふところにもぐりこむと、拳に装着したブレイブナックルが唸りをあげた。 ズガァァン! 拳はバランゾの装甲の中心にめり込む。 「だああ!!!」 ガァン!! 間髪をいれず、続いてバランゾを蹴りあげる。 そして3撃目、しかし 「仕上げだ」 そう言ってバランゾを踏み台にして宙がえりをしただけだった。 しかし、バランゾのアイセンサーにはエレナの余裕の笑みが映った。 しかしその笑みの裏にあったのは、エレナに向かって飛来するミサイルだった。 ドガガガァァァン!! エレナに向かったはずのミサイルは目標を失い、そのままバランゾに突っ込んだ。 それも素手と蹴りでボロボロにした装甲の中心を狙って。 バランゾはそのまま動かなくなった。 「す……すごい…」 ワカは呆然と目の前の光景を目に焼き付けた。 「ナ〜イスコンビネ〜ション♪」 アイリィがそう言うと 「アンタはミサイル打ち落としただけでしょ」 といじわるに笑う。 パチパチパチ、拍手が聞こえた。 「…素敵だ!サーカスでもみているようだったよ!」 「誰……?」 エレナには見覚えがない青い髪の男。男はその格好からハンターと思われた。 「あんたの知り合い?」 ワカは 「いえ、知りません」 とだけ言う。 その言葉をきいた男は 「なんだってぇ!?覚えてないのかい、マイブラザー!」 とそのまま地面にへたりこむ。今日は変な奴とよく会うなあとエレナは思った。 「まあ仕方あるまい、君は以前の記憶を失っているからねえ…」 その言葉にワカは反応した。 「貴方、何か知っているんですか!?」 「知っているも何もぉ〜一夜をともにした仲じゃないかぁー♪」 「はぁ…!?」 ハッと振り返るとワカを白い目でみつめる二人がいた。 「ち…違う!そんなわけない!」 「あっはっは、照れるな照れるな!」 「照れてない!」 そのときエレナは言った。 「あんた、依頼人の関係者?」 そう言うと男は”そのとおりぃ!”と自慢げに答えた。 「ならもう依頼達成ね、行くわよアイリィ」 ワカは何のことか分からず、そのまま立ち尽くす。 二人は男の横を通り過ぎようとした。しかし男は手で二人をさえぎった。 「ちょっと待ちたまえ」 「ファイルの通りにやった、もう十分でしょ」 男はニヤリと笑う。 「悲劇だ…飼い主がいなくなった為に自ら稼がなくてはならないとはな…」 「…黙りな」 「そんな君たちを捨てた飼い主がどこにいるのか知りたくないかい?」 「!?」 エレナの目の色が変わった。 「余計なお世話だ!」 拳を男の頬にふるう。 「な…!」 …しかし手ごたえはなかった。か細い腕の男はそれをいとも簡単に受け止めた。 「迷いがある拳では我輩は倒せんよ、か弱き人の作りし実験体よ…」 「くそ……!」 そう言った男に再び拳をふるう。 しかし今度は避けられただけでなく、すばやい動きで地面に叩きつけられた。 「グぁ!!」 「すこし大人しくしなさい」 バチィッ! 「フグぁ!?」 エレナは痙攣したあと動かなくなった。男の手から微弱なゾンデを食らったようだ。 「お前!エレナさんから離れろ!」 ワカが走り寄る。 「おや…ヤキモチ?」 「ふざけるな!」 ブンッ、とセイバーをふるうと 「おっと」 とエレナから離れる。 「乱暴なところはあいかわらずだなあ、マイブラザー」 「うるさい!お前なんか兄弟じゃない!」 続いて切りかかる。しかし男はヒョイヒョイとその剣を余裕でかわす。 「くっ!」 「剣の振り方もわすれてしまったのか?」 「黙れ!」 その時、男がテクニックを発動したことにワカは気づかなかった。 「ギバータ、そのくらい覚えているだろう?」 「しまっ……!」 パキパキパキ… しだいに足が凍りついて動けなくなった。 「くっ!」 「落ち着きたまえ、マイブラザー」 「…」 男は、氷ついて動けなくなったワカを置いてエレナを連れて逃げようとしていたアイリィの腕を掴む。 「ちょっと手伝ってくれたまえ」 そういうと男はまたさっきのゾンデを食らわした。 「うぁ…!?」 と一瞬唸ったがすぐに黙り込む。 「さて、君もにぶい奴だ。このコ達のことも思い出せないか…」 「なに……?」 「この子達はある飼い主に捨てられた哀れで皮肉な実験体達」 「…」 「こういえば分かるかな、君の大事な”守りたいもの”」 「守…」 「また二人、これで何度目か…」 レポートを読んでいる。そこには二人のニューマンの写真。 「またやっているのか?我輩には理解できん」 男は笑う。 「私が何をしようと勝手だ」 そういうとレポートを丸めてゴミ箱に捨てる。 「アンドロイドがニューマンの孤児を引き取ってるなんて笑える話だ」 「お前には分からんさ、守るものがあるという幸せはな」 そこへ通りすがりの同僚が 「ふん、ロボットにはそんなペットを飼う余裕があって羨ましいぜ」 と嘲笑する。 周りにいた何人かの仲間も一緒に笑う。 「…ペットだと…?」 アンドロイドは怒りに震えていた。その手が瞬時に男に向かって伸び 「貴様に解ってたまるか!」 と首を締め上げる。 「やめときたまえ”オウガ”」 「苦しいよ、放してくれないか…」 「…!」 思わず手を放す。 「今のは…」 「あのときの君を止めるのは厄介だったなあ…」 「…」 いま、私は…この男の首を… 「でも我輩じゃないぞオウガ、あれはあの新米が…」 「オウガ…?」 ああそっか、と男は手をポンと叩く。 「君はオウガ、シークレットチームのエース。その手で多くの敵を切り捨て、赤き鬼人という異名で 呼ばれていた事もある。作戦で大規模な事故があって行方不明になってたんだ」 「嘘だ…」 「今は認めなくていい、思いだしたければココにきたまえ」 男はワカにデータボードを手渡した。 「待ってるよ」 そう言って男は去っていった。 ピロン♪ メールが届いた音。この男にメールする人物は限られているが、それは意外な人物からだった。 「…ワカ?」 トモにメールを送る人物の中でも珍しかった。 何の用だ・・? メールの内容を開く。 ”トモ。気絶している依頼人二人を回収してくれ” ”二人をまきこんでしまった、何も言わず協力して欲しい” 心なしかメールの内容が穏やかではなさそうだ。 ”私の記憶の手がかりが、いや、もう確信とも言えるものを見つけたんだ” 「……」 ”私はこの手で何人も敵を切り殺し、赤き鬼人と呼ばれていたらしい、 もう、ノーチェには戻れない” 「…!?」 ”姉様やオーナーにもよろしく言っといてくれ、また会える日まで” 続く |